絵本紹介『迷子の魂』

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『迷子の魂』

オルガ・トカルチュク 文

ヨアンナ・コホンセ 絵
小椋彩 訳
岩波書店

2021年9月紹介

自分の魂と向き合いたくなる一冊

ある男がいた。彼はよく働き、忙しく充実した日々を過ごしていたが、とある旅の途中、ふと、自分が何者なのかわからなくなる。彼は賢い老医師から「魂が迷子になっている」と告げられ、街はずれのコテージで、じぶんの魂をじっと待ち続けるが……。

絵本がずらりと並んだ図書館の本棚で目に留まったのがこの作品でした。「本との出会いは直観」という言葉が頭をよぎり手に取りました。文章量はさほど多くないですが、静かに心に沁み入ってくる文章です。絵はどこか寂し気な雰囲気を漂わせつつも、温かみと懐かしさを持ち合わせた写実的な美しいデッサンで描かれています。主人公と魂の行方をハラハラしながら追い、ページをめくっていると、幼いころから現在に至るまでの人生のあらゆる場面が思い出され、私の目には涙が溢れていました。そして読み終えたときには、目の前の今生きている世界が少し鮮やかに見えました。不思議な体験をさせてくれたこの絵本の虜になり、自分用に書籍を購入して家族にも紹介しました。年齢や人生経験によって感じ方はそれぞれ異なりましたが、過去と現在の自分を投影させて読み進めたようです。

本書は、総合的に品質に優れた児童文学書に贈られるボローニャ・ラガッツィ賞を受賞しています。素敵な物語であることはもちろんですが、編集や装丁の細部にこだわって、丁寧に制作されたプロの仕事に感銘を受けます。

時間に追われ、無駄を省き、効率性を過度に求められる現代社会において、子どもだけでなく、せわしなく生きる大人にも、きっと何かしらの気づきを与えてくれる作品です。コロナ禍で生活が一変してしまいましたが、私は家族と過ごす時間や、自分の原点を振り返る時間を持つ機会を以前よりももっと大切にするようになりました。じっくりと、丁寧に、自分の魂と向き合いたくなる一冊です。

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